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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3733号 判決 1993年8月31日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは控訴人に対し各自金一〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審ともこれを二〇分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人の各負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

理由

一  争いのない事実

請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  名誉棄損の成否(請求原因4の事実)

1  記事内容の影響力について

《証拠略》によれば、本件記事は、控訴人が東京拘置所内において、所内の規則に違反して、差し入れ品を横流ししていることを具体的に指摘するものであり、右のような控訴人の所内規則違反行為の報道が控訴人の人格の社会的評価を低下させる面があることを否定できないというべきであつて、控訴人が刑事被告人の立場にあること、被控訴人梨元の執筆する芸能リポート記事が通俗的な興味をそそる娯楽性の高いものであること等の事情によつて右結論が左右されるとは考えられない。

原判決のこの点の判断は是認できない。

2  記事内容の虚偽性について

《証拠略》によれば、東京拘置所においては本件記事の指摘するような週刊誌の回し読みの制度はないこと、本件記事の指摘するような所内規則違反の事実が存在するのであれば、東京拘置所の調査、処分等の措置が当然なされてしかるべきであるのに全く不問に付されていることが認められ、右事実によれば、本件記事内容が虚偽であることが認められる。

3  過失について

《証拠略》によれば、被控訴本人梨元は、たまたま会つた東京拘置所の元収容者からの情報提供を受けて本件記事を執筆したが、本件の事実関係につき相当の裏付け調査を欠いたまま、これを本紙に掲載するに至つたことが認められ、右事実によれば、被控訴人らに執筆・掲載にあたつて尽くすべき義務を怠つた過失があつたということができる。

4  結論

以上によれば、被控訴人らの本件記事の掲載は、名誉棄損による不法行為を構成するということができる。

三  損害(請求原因5の事実)

《証拠略》によれば、控訴人は、本件記事の掲載により名誉を棄損され、精神的損害を被つたことが認められ、本件不法行為の態様、本件記事による影響の程度、控訴人の立場等の諸般の事情を総合考慮すると、右精神的損害を慰謝するに足る金額としては金一〇万円が相当である。

四  消滅時効の抗弁

本件全証拠によつても、控訴人が本件記事の掲載された昭和六一年三月二五日ころ、本件記事の存在を知つたことを認めるに足りず、消滅時効の抗弁は理由がない。

五  結論

以上によれば、控訴人の本訴請求は、不法行為による損害賠償として慰謝料金一〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六一年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。よつて、これと異なり、本訴請求を棄却した原判決は失当であるから、これを取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九三条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩佐善巳 裁判官 稲田輝明 裁判官 平林慶一)

《当事者》

控訴人 甲野太郎

被控訴人 株式会社東京スポーツ新聞社

右代表者代表取締役 太刀川恒夫

被控訴人 梨元 勝

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 中村尚彦

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